社会学評論
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公募特集・社会学理論とフィールドの互酬性
二重の不可視化と日常的実践
非集住的環境で生活する在日コリアンのフィールドワークから
川端 浩平
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2012 年 63 巻 2 号 p. 203-219

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抄録
本稿では, 筆者の出身地である岡山で2002年からとりくんでいる, 在日コリアンの若者のフィールド調査と活動の実践の経験に基づき, 既存のアイデンティティ政治やその現場との互酬性のなかで育まれてきた理論によって不可視化されている日常的実践の領域を考察する. 第1に, 非集住的環境で育った在日の個人化を促す2つの力学である, エスニック共同体の溶解という歴史的過程と, 自己責任的主体の構築を促す新自由主義的な価値観について考察する. 第2に, 戦略的なアイデンティティ政治によって描き出される主体のイメージに内包されることなく, かつ日本社会に同化していく存在として捉えられることによって二重に不可視化されている状況について考察する. 第3に, そのような二重の不可視化に対して, 戦略的なエスニシティを基盤としつつ営まれる, 戦術的な日常的実践の領域について検討する. これらの今日の在日の現状を考察するうえでの分析枠組みを踏まえたうえで, 4節以降では, 筆者のフィールド調査の経験を振り返り, これまで捉えきれなかった日常的実践の即興性を明らかにし, 調査者と対象者の関係性を問い直すことによって深まるフィールドのリアリティについて述べる.
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© 2012 日本社会学会
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