社会学評論
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介護家族による「特権的知識のクレイム」
認知症家族介護への構築主義的アプローチ
木下 衆
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2013 年 64 巻 1 号 p. 73-90

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抄録
本稿は, 認知症を患う高齢者を介護する家族 (介護家族) から聞かれる, 「要介護者の本当の姿を知っていたのは自分だけだった」という発言を, 「特権的知識のクレイム」 (Gubrium and Holstein 1990=1997) として分析する. 介護家族による特権性の主張は, 近年の認知症理解とは一見矛盾する. 近年の医学的議論は, 認知症患者の相互行為能力を認め, その主体性を尊重することを求めている. 介護家族の発言は, 要介護者の相互行為能力を無視し, 一方的に自身の「リアリティ定義」 (天田2007) を押し付けているように見える. しかし本稿は, 介護家族のクレイムは, 「認知症」という概念を参照することで初めて成立すると指摘する. 認知症患者の病態は, 環境や周囲の人の対応によって大きく変化する. そのことはしばしば, 「要介護者の病態について, 関係者の判断が異なる」事態を招く. このとき介護家族は, 要介護者の (「昔話をする」といった) 反応を「病気の症状」として解釈することを求める. さらに介護家族は, 「家族の関係性」といった要素を織り込みながら, 自分たちの判断の正当性を主張する. つまり介護家族は, 「認知症」という概念を日常生活にどう当てはめ, 要介護者の病態を推論するかについて, 自分たちの知識の特権性を主張しているのだと読み取れる. ここには, 「新しい認知症ケア」 (井口2007) 時代の家族介護の秩序問題がみられる.
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© 2013 日本社会学会
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