社会学評論
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公募特集「社会学における歴史分析の現在」
記念空間造成事業における担い手の軍隊経験
予科練の戦友会と地域婦人会に焦点を当てて
清水 亮
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2018 年 69 巻 3 号 p. 406-423

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抄録

軍隊を経験した人々が戦後社会の形成にいかに関わっていたかは歴史社会学の重要な探求対象である. 本稿はその一端を戦友会の記念空間造成事業の担い手から考察する.

事例として, 旧海軍航空兵養成学校予科練の戦友会の戦死者記念空間の造成過程を取り上げる. 予科練出身者は総じて若く, 社会的地位も高くなかったにもかかわらず, なぜ大規模な記念空間の造成を比較的早期に達成できたのか. 先行研究は, 集団が共有する負い目といった意識面から主に説明してきた. これに対して本稿は, 各担い手が大規模な事業を実現しうる資源や能力などの社会的な力を獲得していく, 戦前から戦後にかけての過程を, 特に軍隊経験に焦点を当てて探求する.

事業を主導した乙種予科練の戦友会幹部は, 予科練出身者の独力のみならず, 軍学校時代に培われた年長世代の教官との人脈を起点としつつも, 軍隊出身者に限らない政財界関係者とのネットワークから支援を引き出していた. 戦友会集団の外部にあたる地域婦人会のリーダーは, 戦時中の軍学校支援の経験等を背景として, 造成事業において組織的な行動力と, 戦友会内部を統合する政治力を現地において発揮した.

本稿は記念空間造成事業の大規模化の説明を通して, 負い目という意識の「持続」を重視する先行研究に対して, 軍学校や婦人会などの組織における軍隊経験を背景とした資源や能力の「蓄積」という説明図式をオルタナティヴとして提出した.

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© 2018 日本社会学会
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