社会学評論
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トランスジェンダーによる性別変更をめぐる日常的実践
――あるトランス女性の学校経験の語りを通して――
土肥 いつき
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2019 年 70 巻 2 号 p. 109-127

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抄録

本稿の目的は,日常生活場面におけるトランスジェンダー(以下,TG)の性別変更をめぐる実践の過程を明らかにすることである.
これまでのTG 研究は,TG に焦点化し,性別違和や自己認識などを明らかにしてきた.それに対して本稿は,TG の性別変更はTG の実践と他者の承認によって成立すると考え,後に法的に性別変更したTG の学校経験の語りを通して,外見や振る舞いを変えたときの教室内の所属グループや他者からの性別の扱いの変化を分析した.
その結果,以下のことが明らかになった.第1 に,TG がおこなう外見や振る舞いを変える実践は,性別の位置どり(教室内の他の女子/男子との距離)を変える行為であるということ.第2 に,性別の位置どりの変化に対する他者の承認のもと,TG による性別の境界線の越境や再設定により,他者からの性別の扱いが変化すること.第3 に,教室内に働く出生時に割り当てられた性別へと水路づける強制力が,性別カテゴリー内の位置どりの自由度だけでなく,性別カテゴリーと出生時に割り当てられた性別の結びつきや性別カテゴリー間の境界線の自由度にも影響を与えていたこと.
以上のことから,日常生活場面における性別変更は,TG が他者との相対的な性別の位置どりを変えるとともに,性別カテゴリーの境界線の越境や再設定を他者から承認されることを反復するという相互作用の中で成立する行為であることが明らかになった.

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© 2019 日本社会学会
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