社会学評論
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特集「アジアがひらく日本」
「アジア」と「日本」の再定義
――隣人と共に考えるための知的基盤形成――
落合 恵美子
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2019 年 70 巻 3 号 p. 200-221

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抄録
グローバル秩序の再編成が進む現在,日本は自己再定義と進路決定のための地図も指針も失った状態にある.従来の日本の自己定義と世界定義は近代における異例の成功に基づいたものだった.社会科学のフレームも「アジアで唯一近代化を成し遂げた国」という自己定義を前提に作られてきた.日本の自己定義は「アジアの中の西洋」にせよ「アジアの盟主」にせよ「アジア」の定義と背中合わせだったので,日本の自己再定義もアジアの再定義とセットで行わざるをえない.
本稿は,アジアにおける研究と思索の成果を直接に学ぶことにより,「西洋」と「東洋」という二項対立に陥らない新たな世界認識とアジア・日本認識のフレームを提案しようとするものである.アジアにおける学術基盤形成の一環として進めてきた「アジアの家族と親密性」プロジェクトにより収集したアジア諸国の重要文献を使用する.
西洋からの眼差しによる二分法を外して自ら語ったアジアは「ひとつ」ではなく,いくつかの強大な文明の集合でもなく,重層的多様性そのものである.その中で日本はアジアの重層的多様性を内に含みこんだ社会として再定義できよう.また「アジア的家族主義」という概念と現実の検討を通じて,現在のアジアで強まっている「アジア主義」的な自己定義が,不適切な社会制度の構築を通じて深刻な現実的帰結を生み出す可能性を示した.アジアの隣人との協働により,日本の自己理解の道も拓いてゆきたい.
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© 2019 日本社会学会
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