社会学評論
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アニメ産業における労働者の定着志向とその構造的条件
――ネットワーク型組織におけるインフォーマルなコミュニティに着目して――
松永 伸太朗永田 大輔
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2020 年 71 巻 3 号 p. 358-376

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抄録

芸能などの芸術産業に比して,労働集約性が高く熟練した制作人口を大規模に必要とするアニメ産業では,制作者の定着への志向がいかに維持されるかが課題となる.定着が維持されるためには,制作者が仕事を獲得し続けられる見通しをもてることが必要である.アニメ産業ではプロジェクトベースの契約が主流である制作者を,労務管理側が評価することが難しいため,制作者同士の相互評価が産業への定着志向を持ち続けるうえで重要になる.本稿ではアニメ産業の制作者同士の相互評価が機能しうる場としてのインフォーマルなコミュニティを支える構造的条件とその限界について,アニメーターへの2つのインタビュー調査に基づいて検討した.

近年の技術革新に伴い現場の管理側が若手中心になり,管理側からのアニメーターへの評価がさらに難しくなり,アニメーター同士の相互評価の重要性は増していた.ベテランはインフォーマルな相互評価を行っていることを語っていたが,若手は自らが適切に「評価されていない」という感覚をもっており,コミュニティの衰退が示唆されていた.このような差異を導く原因として,分業による評価の曖昧化と,放映期間の短期化によるコミュニケーション機会の減少があった.

産業への定着志向が維持されるためにはインフォーマルなコミュニティが必要である.本稿はそのコミュニティがどのように揺らいでいるかの構造的条件の解明の重要性を指摘した.

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