社会学評論
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労働組合と賃金格差拡大
――RIF 回帰分析および要因分解法による検討――
長松 奈美江
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2020 年 71 巻 3 号 p. 394-410

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抄録

1980 年代以降,欧米諸国において団体交渉制度の変化が賃金格差の拡大をもたらしたことが指摘されている.しかし日本のデータを使用した研究は少なく,労働組合が賃金格差の拡大トレンドとどのような関連をもっているのかは明らかにされていない.本稿ではRIF 回帰分析および要因分解法を1985 年と2015 年に実施された社会階層と社会移動全国調査(SSM 調査)に適用して,男性雇用者における労働組合の賃金効果を検討した.分析の結果,以下の2 点が明らかになった.第1 に,1985 年において労働組合は賃金分布の上位における賃金水準を引き下げることで賃金分布を平等化していたが,2015 年ではその効果がみられなかった.第2 に,1985 年から2015 年の間における組合組織率の低下は賃金格差を拡大させていた.一方,この30 年間の組合の賃金構造の変化は,分布の下位において賃金格差を縮小させていた.1985 年において,労働組合は分布の下位~中位の賃金を上げ,分布の上位の賃金を下げる効果をもっていた.これは,分布の下位においては格差を大きくし,分布の上位においては格差を小さくしていたことを意味する.しかし2015 年ではこれらの効果はみられなかった.この賃金構造の変化が,分布の下位における賃金格差の縮小に寄与した.ただし労働組合の賃金構造効果は頑強なものではなく,近年の賃金格差拡大に寄与したものは組合組織率の低下であることがわかった.

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© 2020 日本社会学会
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