社会学評論
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広島・長崎平和宣言からみた平和意識の変容
渡壁 晃
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2021 年 72 巻 2 号 p. 118-134

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抄録

本稿の目的は,広島と長崎の平和宣言の内容の変化を戦後の社会状況との関連で明らかにすることである.広島・長崎両市のホームページに掲載されている第1回(広島は1947年,長崎は1948年)から2019年までの平和宣言の文字データを計量テキスト分析の手法を用いて分析した.具体的には広島と長崎の平和宣言の頻出語200 語を比較した.広島と長崎に共通していたのは,戦後初期に戦争に関する語が頻出し,時間がたつにつれて戦争に関する語に代わって核に関する語が頻出するようになったということである.このような変化の背景には,戦後初期に社会で共有されていた厭戦感情が時間の経過とともに和らぎ,冷戦下で国際的な緊張が高まり,核戦争の脅威が高まったという社会状況があった.異なっていたのは,広島では被爆者援護に関する語が,長崎ではキリスト教に関する語が頻出していたことである.これらの語が平和宣言に登場するようになる時期は日本社会において広島と被爆者援護,長崎とキリスト教が結びつけられるようになった時期よりも遅かった.このようなタイムラグが生じた背景には国家補償の被爆者援護法を求めるといった全国的な動きを広島が追認し,カトリック信仰と被爆体験を結びつけた永井隆の作品の大ヒットを長崎が追認したことがあったと考えられる.つまり,日本社会で共有された「怒りの広島」「祈りの長崎」というイメージが各地域で内面化されたのである.

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