社会学評論
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72 巻, 2 号
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投稿論文
  • ―「円環的時間」という理解を可能にする実践―
    河村 裕樹
    2021 年72 巻2 号 p. 84-99
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    本稿では,精神医療の一形態である精神科デイケアでのフィールドワークをもとに,エスノメソドロジーの方法論的態度において,その成り立ちを可能にする実践と構造に焦点を当てた.

    精神医療に対しては,その収容主義的な治療に批判が向けられ,病床数の削減などの取組みが始まっている.そのような状況に先駆けて,精神科デイケアでは,患者の地域での生活を支える支援が行われている.先行研究において,「円環的時間」という表現で,デイケアでは同じような時間が繰り返されることが指摘されている.そこで本稿では,そのような繰り返しを可能にする仕組みに着目した.その際,特に着目したのが繰り返しかつ頻繁に観察可能な「逸脱」の再利用と,「部活動」と結びついた「褒める」ことである.

    その結果,患者の「逸脱」を「解決」へと導く方法や,「褒める」ことと結びついた「部活動」の取組みを明らかにした.そして「部活動」という特徴的な取組みが,患者を褒めることを容易にするだけでなく,職員の負担を調整するために組織されていることを見出した.こうした仕組みが,患者がデイケアに「居ること」を可能にしていることを,先行研究との比較を通じて論じた.そしてデイケアに対する「円環的時間」という特徴づけに対して,本稿での知見は,そのようにみえるデイケアであっても,さまざまに組織化され,計算され,考えられた仕組みによって成り立っていることを示していると結論づけた.

  • ―都市計画当局の実践に対する学習論からの分析―
    中川 雄大
    2021 年72 巻2 号 p. 100-117
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    現在,批判的都市研究は人びとが実践のなかで用いる「都市」概念に関心を寄せている.だが,そもそも「都市」概念はどのようにして普及したのだろうか.本稿はこの問題意識から,近代日本における「都市」概念の普及過程を明らかにする.そこで注目するのが都市計画の導入過程である.都市計画当局は,1910年代後半から1920年代前半に,都市住民の都市計画への協力を確保しようとした.その際に,都市住民に「都市」概念を受容させようと試みていく.本稿は学習論の視点を導入し,都市計画当局が都市住民に「都市」概念を学習させるために行った諸実践を分析する.

    まず,「都市」概念は「有機体」として説明されたことを示す.都市住民はその一部を構成する「市民」として位置づけられた.それゆえに,彼らは「都市」を学習しなければならないという責任を負うこととなった.その上で,都市計画当局は都市計画展覧会によって欧米と日本の都市を比較しつつ,「市民」に「都市」を視覚的に学習させることを試みた.他方,都市計画当局は都市住民の学習効果を確かめようとし,そのなかで都市計画展覧会の限界にも気づかされていく.

    すなわち,都市計画当局が「都市」概念を都市住民に学習させる実践は,彼らを「市民」として形成するという力学を伴うものであった.そして,その実践の過程で都市計画当局も都市住民の反応から学習していく側面があったといえる.

  • 渡壁 晃
    2021 年72 巻2 号 p. 118-134
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,広島と長崎の平和宣言の内容の変化を戦後の社会状況との関連で明らかにすることである.広島・長崎両市のホームページに掲載されている第1回(広島は1947年,長崎は1948年)から2019年までの平和宣言の文字データを計量テキスト分析の手法を用いて分析した.具体的には広島と長崎の平和宣言の頻出語200 語を比較した.広島と長崎に共通していたのは,戦後初期に戦争に関する語が頻出し,時間がたつにつれて戦争に関する語に代わって核に関する語が頻出するようになったということである.このような変化の背景には,戦後初期に社会で共有されていた厭戦感情が時間の経過とともに和らぎ,冷戦下で国際的な緊張が高まり,核戦争の脅威が高まったという社会状況があった.異なっていたのは,広島では被爆者援護に関する語が,長崎ではキリスト教に関する語が頻出していたことである.これらの語が平和宣言に登場するようになる時期は日本社会において広島と被爆者援護,長崎とキリスト教が結びつけられるようになった時期よりも遅かった.このようなタイムラグが生じた背景には国家補償の被爆者援護法を求めるといった全国的な動きを広島が追認し,カトリック信仰と被爆体験を結びつけた永井隆の作品の大ヒットを長崎が追認したことがあったと考えられる.つまり,日本社会で共有された「怒りの広島」「祈りの長崎」というイメージが各地域で内面化されたのである.

  • 柴田 温比古
    2021 年72 巻2 号 p. 135-150
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,第二次世界大戦以降,人の移動の拡大に伴って生じてきたとされる「市民権のリベラル化」の内実を理論的に再検討することである.本稿では,市民権を構成する2つの側面を〈成員資格〉と〈統合〉と名付け,両者の接合関係の観点から「リベラル化」の内実を再考する.〈成員資格〉と〈統合〉の両者の挙動は,「属性 ascription/業績 achivement」区分を用いることで近似的に定式化できる.従来的な国民国家の理念型の下では,前者は「出生」に基づくという点で属性主義的基準に,後者は各市民の社会における実体的なパフォーマンスに関わるという点で業績主義的基準に,それぞれ即して挙動していた.しかし人の移動が一般化するなかでは,出生が〈成員資格〉の画定基準としては適切でなくなるため,〈成員資格〉を〈統合〉に一致させ,両者を同時に業績主義的基準に基づいて画定するという戦略が浮上する.この〈成員資格〉の業績化というトレンドこそが「市民権のリベラル化」として観察されてきた事態の内実である.しかしそれは,近年の市民的統合政策の淵源となっており,さらには国籍剥奪の拡大や国籍をめぐる生得権の撤廃といった反直観的な帰結をも潜在的にもたらしうるという点で「イリベラル」な側面をも含んでいる.それゆえ市民権の真の「リベラル化」をめぐっては,属性主義的基準と業績主義的基準のよりよい併用の可能性こそが焦点となる.

  • ―質的調査からみる育児期就業女性の対処戦略と階層化―
    藤田 結子, 額賀 美紗子
    2021 年72 巻2 号 p. 151-168
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/09/30
    ジャーナル フリー

    本稿は,女性の社会進出と女性の階層化が同時に進む中,育児期に就業する女性は,食事に関わる家事が自分に偏る状況をどう意味づけているのか,「手作り規範」に注目して考察することを目的とする.リサーチクエスチョンとして,(1)「育児期に就業している女性は,食事の用意にどのような役割を見出しているのか」,(2)「手作り規範への態度は,就業形態,職業,学歴,世帯収入によって女性の間でどのような差異がみられるのか」を設定し,インタビューと参与観察,および写真撮影を調査方法に採用し,データを分析した.

    調査の結果,第1の問いに関して,本調査の女性たちは「子ども中心主義」から食事の用意に母親役割を見出していることが明らかになった.第2の問いに関しては,就業形態や職業との関わりがみられた.つまり,母親役割の延長として働く非正規女性は「手作り=愛情」に肯定的な傾向がある一方で,正規フルタイムや準専門職の女性に手作り規範を批判的に捉える事例が複数みられた.また,世帯収入が高い者はサービスや商品を購入して時間を節約するなど,世帯収入によって対処戦略に異なるパターンがみられた.要するに,手作り規範の相対化にも,その対処戦略にも階層差が見出されたのである.

    女性活躍推進と女性の階層化によって,階層の高いキャリア女性の間では手作り規範が弱まっても,非正規雇用やひとり親の女性は負担が重いままとなる可能性が示唆された.

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