2022 年 72 巻 4 号 p. 450-466
本稿では,イクメンという父親像と男らしさとの関連から,現代日本がジェンダー平等に向かうためのケアリング・マスキュリニティの効果と課題について議論する.
厚生労働省の父親支援政策イクメンプロジェクトにおけるイクメンについて,イクメンプロジェクトの啓発用資料を分析したところ,イクメンは子育てに積極的に関わる/関わろうとする一方で,その働き方には戦後日本のヘゲモニック・マスキュリニティである〈一家の稼ぎ主という男らしさ〉が大きく影響する父親像であることがわかった.そして,稼得責任も子育て責任も負う「二重負担モデル」であるイクメンの子育ては,母親と比較すると,質的にはほぼ同じだが量的にはかなり少なく,男女差は縮まっていない.
このイクメンの分析結果をふまえて,EUでジェンダー平等に有効だといわれるケアリング・マスキュリニティの「ケアを男らしさに含める」戦略を考察すると,男らしさを手放したくない男性や企業に受け入れられやすいという効果はあるが,ヘゲモニック・マスキュリニティの支配的な特性を取り除くことが難しいという課題があることがわかった.そのため,日本が本当にケアのジェンダー平等をめざすのであれば,ケアリング・マスキュリニティのようにケアを男らしさに含めて,ジェンダーをそのまま保つのではなく,フェミニズムのケア論が主張するように「ケアからジェンダーを外す」ことが重要である.