2022 年 73 巻 2 号 p. 136-153
離れて暮らす親の介護,いわゆる遠距離介護に直面している子どもは,親を支える福祉の専門職であるケアマネジャーに,子どもが望ましいと考えるケアサービスの状況を実現するための働きかけを電話で行なうことがある.その際その働きかけは,ケアマネジャーの判断を尊重しながらも,離れて暮らす子どもが望ましいと考える状況の実現可能性が高くなる形で遂行される必要がある.本稿は遠距離介護の電話におけるこうした相互行為上の課題に対処するための方法を会話分析のアプローチによって解明し,以下の知見を得た.
第1に,離れて暮らす子どもは,依頼ではなく,望ましい状況の提示を通じた,申し出の誘い出しを行なうことで,ケアマネジャーに未来の行為を決める権利を多く配分する.そして申し出が行なわれない場合には,誘い出しそれ自体をなかったことにして,ケアマネジャーの判断を尊重している.
第2に,離れて暮らす子どもは,望ましい状況を提示した後に沈黙することでケアマネジャーの反応を観察している.そしてその時点までに申し出がなされなければ,その機会を再度作り出し,望ましい状況の受益者の拡大を行なって,実現可能性を高めている.
今後の遠距離介護の電話の社会学的探求には,電話の参加者の志向に根ざした分析を通じ,「見られてはいるが,気づかれてはいない」遠距離介護の課題解決の方法の解明を行ない,その知見の蓄積を現場に還していくことが求められる.