社会学評論
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73 巻, 2 号
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投稿論文
  • ―雇用労働力化に着目して―
    麦山 亮太
    2022 年 73 巻 2 号 p. 86-102
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    出産・育児期の女性の就業はどのように変化してきたのか.その変化は階層差を伴って進行してきたのか.これらは,ジェンダー不平等,ならびに女性内・世帯間の階層化の実態を明らかにするうえで重要な問題である.本稿では,高学歴化と並行して生じた自営・家族従業セクターの縮小と非正規雇用セクターの拡大,そして正規雇用セクターの安定的な推移という労働市場の構成変化に着目して,出産・育児期の女性就業の趨勢,ならびにその学歴差を再検討する.1985-2015年SSM調査を用いて,1970-2009年に第1子を出産した女性の出産2年前から6年後までの就業経歴データを構築し,出産年による比較分析を行った.分析の結果は以下の通りである.全体の就業率は微増しているが,その内実をみると自営家族従業での就業率の低下と非正規雇用での就業率の上昇が相伴って進行し,正規雇用での就業率にはほとんど変化がなかった.出産数年後の就業率は上昇したが,その多くは非正規雇用が増えたことによる.学歴別にみると,とくに短大卒層の就業率が大きく増加し,専門卒・短大卒・大卒層の就業率は同程度に至った.ただし専門・短大層の就業率増加の多くは非正規雇用によるもので,大卒層の非正規雇用の増加は緩やかである.高卒層の就業率はほとんど上昇していない.分析結果は,高卒とそれより高い学歴層との間に就業率の差が生じる格好で階層化が進みつつあることを示す.

  • ―現代社会の統治を検討するモデルとしてのミシェル・フーコーの安全概念―
    中村 健太
    2022 年 73 巻 2 号 p. 103-118
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    現代社会はグローバル化や価値観の多様化により,さまざまな人と出会う可能性があると同時に,いつ問題が起こるかわからない不確実性も抱えている.こうした社会の統治を捉えるために有効なのが,ミシェル・フーコーの安全メカニズムである.しかし安全メカニズムに言及した研究は,安全メカニズムが,個体群という統治対象を,正常値とよばれる値にもとづいて統治しているという視点を見落としている.そこで本稿は,現代社会の統治をめぐる新たな視座の構築を目的として,フーコーの安全メカニズムを分析した.

    分析の結果,以下の特徴が明らかになった.第1に,空間を開放し,自由な流通を促進することで,市場経済を活発化させる.第2に,それに伴うさまざまな危険の発生をあらかじめ阻止しようとはしない.第3に,人間をヒトという生物種として捉え,その集まりを指す個体群を,正常値にもとづいて統治する.

    また安全メカニズムは,フーコーが自由主義的統治性とよぶ統治メカニズムとも深く関わっている.本稿ではこの観点からも安全メカニズムを分析することで,安全メカニズムが,規律などの他のメカニズムを利用して社会を統治していることを示した.そして安全メカニズムは,自由に伴う不確実性を前提とする統治メカニズムとして提示可能であり,価値観が多様化し,活発な流通が行われている現代社会を捉えるための視座を有することを明らかにした.

  • ―アダルトビデオを「女性向け」に編集する動画サイトとその視聴者―
    服部 恵典
    2022 年 73 巻 2 号 p. 119-135
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,「ヘテロ男性を主なターゲットとするAV(アダルトビデオ)が,なぜ・いかにして一部を切り取るだけで『女性向け』のアダルト動画に編集(不)可能なのか」という問いを通じ,ポルノグラフィを「再意味づけ」する実践の可能性と限界を経験的に明らかにする.ポルノは,必然的に男性から女性への暴力・収奪を引き起こすものだと理論化すると,まさに描き出された通りの不平等を普遍化してしまうという問題がある.ゆえに,ポルノを差別や抑圧に抵抗するかたちで読み直す「再意味づけ」への着目が重要となる.しかし,「再意味づけ」が性規範の単なる反復や強化に陥る可能性が指摘されているにもかかわらず,先行研究では個人の抵抗可能性が過大評価され,視聴を支える動画サイトにおける優先的な読みとの交渉的解釈が分析されていなかった.

    分析には,女性向けアダルト動画サイト「GIRL’S CH」のプロデューサーへのインタビュー,動画レビュー,編集前後の映像を用いた.サイトと利用者は,もともと「男性向け」だったAV から「女性向け」と感じるシーンを新たな見所として発見する読み直しを行えているが,女性に対し抑圧的とされてきたシーンは「女性向け」と再意味づけせずに省く傾向があった.本稿はこうして,作品の一部のみ観てもよいというAV のメディア的特性への着目を通じて,バトラーの反ポルノ批判の有効性と同時に,その限界を経験的に示した.

  • ―望ましさの提示による申し出の誘い出し―
    中川 敦
    2022 年 73 巻 2 号 p. 136-153
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    離れて暮らす親の介護,いわゆる遠距離介護に直面している子どもは,親を支える福祉の専門職であるケアマネジャーに,子どもが望ましいと考えるケアサービスの状況を実現するための働きかけを電話で行なうことがある.その際その働きかけは,ケアマネジャーの判断を尊重しながらも,離れて暮らす子どもが望ましいと考える状況の実現可能性が高くなる形で遂行される必要がある.本稿は遠距離介護の電話におけるこうした相互行為上の課題に対処するための方法を会話分析のアプローチによって解明し,以下の知見を得た.

    第1に,離れて暮らす子どもは,依頼ではなく,望ましい状況の提示を通じた,申し出の誘い出しを行なうことで,ケアマネジャーに未来の行為を決める権利を多く配分する.そして申し出が行なわれない場合には,誘い出しそれ自体をなかったことにして,ケアマネジャーの判断を尊重している.

    第2に,離れて暮らす子どもは,望ましい状況を提示した後に沈黙することでケアマネジャーの反応を観察している.そしてその時点までに申し出がなされなければ,その機会を再度作り出し,望ましい状況の受益者の拡大を行なって,実現可能性を高めている.

    今後の遠距離介護の電話の社会学的探求には,電話の参加者の志向に根ざした分析を通じ,「見られてはいるが,気づかれてはいない」遠距離介護の課題解決の方法の解明を行ない,その知見の蓄積を現場に還していくことが求められる.

  • ―「混血児」概念の用法と文脈に着目して―
    有賀 ゆうアニース
    2022 年 73 巻 2 号 p. 154-171
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/09/30
    ジャーナル フリー

    戦後日本では連合軍の占領を背景として進駐軍軍人・軍属と日本人女性の間に大量の子どもが出生し,彼ら「混血児」をいかに処遇すべきかという観点から「混血児問題」が顕在化した.先行研究では日本におけるレイシズムが顕現した事例として「混血児問題」が考察されてきた一方で,「混血児」に対する人種差別を問題として理解すること自体がいかにして(不)可能になっていたのかという点は見落とされてきた.

    本稿では「混血児」概念の用法と文脈を分析することで,この課題に取り組んだ.分析により次の知見を得た.「混血児」概念が参照されるにあたって「子ども」というカテゴリーが知識として前提されることで,学校教育や児童福祉などが「混血児問題」の制度的文脈として発動された.彼らの人口や人種的差異などの知識を参照することで,教育上の統合・分離という争点をめぐる議論が展開された.しかしこれらの知識が再編されると,「混血児問題」の源泉と責任はむしろ「大人」の「日本人」に帰属される.この理解にもとづき「無差別平等」原則が各方面で採用され,就学機会の提供だけでなく人種差別・偏見の是正が教育・福祉上の課題として追求されていった.こうした〈反人種差別規範〉は,「子ども」という人生段階上のカテゴリーに依存していたがゆえに,人種差別を公的問題として同定し対処する施策が児童福祉や学校教育という制度的枠組に制約されるという限界を内包していた.

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