社会学評論
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戦後「混血児問題」における〈反人種差別規範〉の形成
―「混血児」概念の用法と文脈に着目して―
有賀 ゆうアニース
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2022 年 73 巻 2 号 p. 154-171

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抄録

戦後日本では連合軍の占領を背景として進駐軍軍人・軍属と日本人女性の間に大量の子どもが出生し,彼ら「混血児」をいかに処遇すべきかという観点から「混血児問題」が顕在化した.先行研究では日本におけるレイシズムが顕現した事例として「混血児問題」が考察されてきた一方で,「混血児」に対する人種差別を問題として理解すること自体がいかにして(不)可能になっていたのかという点は見落とされてきた.

本稿では「混血児」概念の用法と文脈を分析することで,この課題に取り組んだ.分析により次の知見を得た.「混血児」概念が参照されるにあたって「子ども」というカテゴリーが知識として前提されることで,学校教育や児童福祉などが「混血児問題」の制度的文脈として発動された.彼らの人口や人種的差異などの知識を参照することで,教育上の統合・分離という争点をめぐる議論が展開された.しかしこれらの知識が再編されると,「混血児問題」の源泉と責任はむしろ「大人」の「日本人」に帰属される.この理解にもとづき「無差別平等」原則が各方面で採用され,就学機会の提供だけでなく人種差別・偏見の是正が教育・福祉上の課題として追求されていった.こうした〈反人種差別規範〉は,「子ども」という人生段階上のカテゴリーに依存していたがゆえに,人種差別を公的問題として同定し対処する施策が児童福祉や学校教育という制度的枠組に制約されるという限界を内包していた.

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© 2022 日本社会学会
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