2022 年 73 巻 3 号 p. 230-245
本稿の目的は二重労働市場に着目して,労働市場における仕事の質の配分構造と,仕事と賃金の結びつきについて明らかにすることにある.二重労働市場によれば,第一次労働市場と第二次労働市場の間では賃金水準のみならず,仕事の質も異なることが示唆される.しかしながら,先行研究ではこれら仕事の質の配分構造が二重労働市場,特に企業規模に応じてどのように決定されているのか,また,仕事の質を統制した際に仕事には還元できない,企業規模がもたらす「過分な賃金」が存在するか否かは明らかではなかった.そこで本稿ではこれらの課題について,効率賃金仮説に立脚して経済協力開発機構(OECD)の国際成人力調査(PIAAC)を用いて分析を行った.
分析の結果,以下の2点がわかった.第一に,仕事の質は一部を除いて,企業規模が仕事の質を規定せず,もっぱら労働者個人の職業や能力,雇用形態によって説明可能である.第二に,仕事の質や雇用形態,職業を統制してもなお,企業規模が独自に賃金を規定しており,仕事の質によって効果もほとんど調整されない.以上より,雇用形態と並んで二重労働市場の重要な要因の一つとされる企業規模は,効率賃金仮説の指標であること,同時に,企業規模によって成立している理論枠組みが異なる可能性も示唆された.