社会学評論
Online ISSN : 1884-2755
Print ISSN : 0021-5414
ISSN-L : 0021-5414
73 巻, 3 号
選択された号の論文の26件中1~26を表示しています
投稿論文
  • 松田 茂樹
    2022 年 73 巻 3 号 p. 196-213
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,要因配置調査を用いて,子育て支援策の拡充およびその財源確保のための増税が,子どもをもつ有配偶女性の追加出生意欲に与える効果を明らかにすることである.この方法を用いた先行研究は,財源確保を考慮せずに,子育て支援の拡充が人々の出生意欲に与える効果を研究してきた.これに対して,本研究の独自性は,少子化対策の現状をふまえて,子育て支援策を拡充するために増税もしなければならない場合を想定した要因配置調査を実施したことである.使用した要因は,児童手当の増額等の5つの子育て支援策と1つの増税策である.これらの要因を組み合わせたヴィネットカードを作成して,そこに記述された支援策が実施された場合の追加出生意欲を調べた.子どもをもつ有配偶女性に対する調査の個票データを分析した結果,次の3点の知見がえられた.第一に,子育て支援策のうち,子育ての経済的負担を軽減するものが,追加出生意欲を向上させる効果が相対的に大きい.第二に,子育て支援策の財源確保のために増税が行われると,追加出生意欲は大きく減退する.第三に,子育て支援策を拡充する一方でその財源確保のために増税が行われると,一部の子育て支援策が本来もつ追加出生意欲を改善する効果を緩和する.本研究の結果は,今後の少子化対策のあり方に示唆を与えるとともに,この研究方法を社会福祉等の政策にも応用できる可能性を拓くものである.

  • ―Z. バウマンの後期理論におけるユートピアの構想―
    呉 先珍
    2022 年 73 巻 3 号 p. 214-229
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,ジグムント・バウマンの後期理論におけるユートピアと「レトロトピア」をめぐる議論において,「過去」と「未来」の有する意味内容を再解釈することで,彼のユートピア論の批判理論的意義を解明するものである.

    バウマンはユートピアを「絶対に到来しない未来」に,「レトロトピア」を現代社会に浮遊するノスタルジアに結びつけて論じている.これまでの研究においては,バウマンの論じる未来は,A. グラムシやK. マンハイムらを継承する,社会変革に対する前向きな態度として理解されてきた.これらは,時間の常識的理解やそれにまつわる社会的に共有された意味に἞み尽くされる問題としてバウマンにおける未来と過去を理解している.

    だが,彼がとりだす未来と過去は,それらの理解を離れ,「私(‘I’)」の自己同一化そのものに直結する新たな時間理解を指示している.バウマンはE.レヴィナスの自己を空にする〈自己〉という考え方を基礎に,この自己の二元性ゆえに〈自己〉が自己を離れ他者への責任をもつことに「絶対に到来しない未来」としてのユートピアを見出している.このようなユートピア論を土台にしているために,「レトロトピア」論におけるナルシシズム批判は,現代のアイデンティティをめぐる問題の目撃証言にのめりこむことなく,自己同一化の本源的なアンビバレンスとの関連で現象の本質を読み解いている.

  • ―二重労働市場からのアプローチ―
    瀬戸 健太郎
    2022 年 73 巻 3 号 p. 230-245
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は二重労働市場に着目して,労働市場における仕事の質の配分構造と,仕事と賃金の結びつきについて明らかにすることにある.二重労働市場によれば,第一次労働市場と第二次労働市場の間では賃金水準のみならず,仕事の質も異なることが示唆される.しかしながら,先行研究ではこれら仕事の質の配分構造が二重労働市場,特に企業規模に応じてどのように決定されているのか,また,仕事の質を統制した際に仕事には還元できない,企業規模がもたらす「過分な賃金」が存在するか否かは明らかではなかった.そこで本稿ではこれらの課題について,効率賃金仮説に立脚して経済協力開発機構(OECD)の国際成人力調査(PIAAC)を用いて分析を行った.

    分析の結果,以下の2点がわかった.第一に,仕事の質は一部を除いて,企業規模が仕事の質を規定せず,もっぱら労働者個人の職業や能力,雇用形態によって説明可能である.第二に,仕事の質や雇用形態,職業を統制してもなお,企業規模が独自に賃金を規定しており,仕事の質によって効果もほとんど調整されない.以上より,雇用形態と並んで二重労働市場の重要な要因の一つとされる企業規模は,効率賃金仮説の指標であること,同時に,企業規模によって成立している理論枠組みが異なる可能性も示唆された.

  • ―ポスト構造主義,自己規律化論,ポスト伝統社会論―
    安達 智史
    2022 年 73 巻 3 号 p. 246-261
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    グローバル化を背景に伝統に基礎づけられた既存のジェンダー秩序の揺らぎを多くの社会が経験するなか,宗教と女性のエージェンシーとの関係があらためて問われるようになっている.そこで宗教は,女性の身体を既存のジェンダー役割に鋳造するものなのか,それとも別様に振る舞える力(=エージェンシー)を付与するものなのか,という問いが議論されている.本研究は,こうした問いを念頭に,現代イスラーム社会の女性研究を参照しつつ,3つのエージェンシー理論を比較している.第一の「ポスト構造主義」は,比較的弱い立場の女性を対象にしつつ,諸構造の作用に対して,その都度みせる多様な戦術的応答のなかにエージェンシーを見出している.第二の「自己規律化論」は,非西洋社会の中産階級を対象に,女性のイスラームへの恭順にエージェンシーの源泉をみてとっている.第三の「ポスト伝統社会論」は,自身の信仰と非イスラーム的生活空間との両立という課題を念頭におく西洋の移民第二世代を対象に,信仰への同一化を通じた社会への適応の努力にエージェンシーの可能性を看取している.以上を踏まえ,異なる社会空間のなかで多種多様な関心や優先事項をもつ女性ムスリムの多様な経験や,そこで垣間見られるエージェンシーを把握するために,(利点と欠点を併せもつ)複数の理論枠組みを駆使することがポストコロニアル・フェミニズムにとって有益な戦略であると結論づけた.

研究動向
書評
feedback
Top