社会学評論
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イスラームと女性のエージェンシー
―ポスト構造主義,自己規律化論,ポスト伝統社会論―
安達 智史
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2022 年 73 巻 3 号 p. 246-261

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抄録

グローバル化を背景に伝統に基礎づけられた既存のジェンダー秩序の揺らぎを多くの社会が経験するなか,宗教と女性のエージェンシーとの関係があらためて問われるようになっている.そこで宗教は,女性の身体を既存のジェンダー役割に鋳造するものなのか,それとも別様に振る舞える力(=エージェンシー)を付与するものなのか,という問いが議論されている.本研究は,こうした問いを念頭に,現代イスラーム社会の女性研究を参照しつつ,3つのエージェンシー理論を比較している.第一の「ポスト構造主義」は,比較的弱い立場の女性を対象にしつつ,諸構造の作用に対して,その都度みせる多様な戦術的応答のなかにエージェンシーを見出している.第二の「自己規律化論」は,非西洋社会の中産階級を対象に,女性のイスラームへの恭順にエージェンシーの源泉をみてとっている.第三の「ポスト伝統社会論」は,自身の信仰と非イスラーム的生活空間との両立という課題を念頭におく西洋の移民第二世代を対象に,信仰への同一化を通じた社会への適応の努力にエージェンシーの可能性を看取している.以上を踏まえ,異なる社会空間のなかで多種多様な関心や優先事項をもつ女性ムスリムの多様な経験や,そこで垣間見られるエージェンシーを把握するために,(利点と欠点を併せもつ)複数の理論枠組みを駆使することがポストコロニアル・フェミニズムにとって有益な戦略であると結論づけた.

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© 2022 日本社会学会
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