2023 年 74 巻 1 号 p. 67-85
本稿の目的は,キャリア選択の理由づけや要因の分類,さらには選択の責任帰属がいかになされているかを,そのキャリア選択を経験する当人の理解に基づいて明らかにする方法を提示することである.先行研究では,分析者によって,当事者たちの語りから進路意識のタイプやキャリア形成の要因が特定され,またキャリア選択の責任帰属が争われてきた.これに対し本稿では,エスノメソドロジーの方針に依拠して高校生のインタビュー調査での語りの分析を通して,生徒や調査者がインタビューのやり取りにおいて行っていることを記述し,かれら自身のキャリア選択の経験がいかに編成されているかを明らかにした.
まず生徒Aの語りでは,一般的な知識に基づく商業高校生の進路選択パターンから,Aの回答が進路選択理由として定式化され,A固有の進路選択の過程が編成されていた.さらに生徒Uは,調査者からの規範的な期待を伴う質問に対し,そうした期待に反する自身の行動に進路未定に至った要因があることを語り,自らに責任帰属を行っていた.最後に生徒Kは,1年ごとの3回の調査を通して,自身の意思や外的な状況などの記述を変化させることで,進路選択の理由も変化させ,また責任の所在も変更させていた.以上の分析から,当事者自身の理解のもとでのキャリア選択の経験を跡付けていくために,かれらがインタビューにおいて行っていることを記述するという方針とその重要性を提示した.