2023 年 74 巻 1 号 p. 86-104
日本では,戦後,性役割意識の平等化が急速に進んだ後,2000年代にはその勢いは弱まり,性役割分業肯定への「ゆりもどし」が確認される.こうした性役割意識の長期的変動について理解を深めるため,本稿は,「社会的地位の構成変化による性役割意識の平等化」に着目し,1985年から2015年までのSSM調査データを用いて,時代・世代・構成効果の線形要因分解と媒介分析を行った.分析の結果,第1に,世代→社会的地位→性役割意識の間接効果,すなわち社会的地位の構成変化による平等化が確認された.女性と有配偶女性では高学歴化,専門・管理職の増加が,有配偶男性では母親の正規雇用増加や配偶者の高学歴化と専門・管理職の増加が,平等化に大きく寄与していた.この結果が示すのは,高学歴化や女性労働力率の上昇が性役割意識の平等化を帰結するというよりも,学歴・仕事・家族に関するさまざまな社会的地位の構成変化が,ジェンダー差をともないつつ,時には本人以外の重要な他者の影響も反映しながら意識を変化させるという複線的な経路を通じた価値変容の姿である.第2に,戦後生まれ以降,新たな世代で性役割意識に変化はみられないが(総合効果),構成変化による平等化(間接効果)を統制すると,女性では新たな世代で平等化とは逆方向への変化(直接効果)があらわれることを示し,性役割分業肯定への「ゆりもどし」の背後にあるメカニズムの一端が明らかになった.