2023 年 74 巻 2 号 p. 262-279
離婚は,特に女性の経済状況を大きく悪化させるため,ライフコースを通じた不平等生成の重要なメカニズムとされる.しかしながら,先行研究では既婚時と離婚後の経済状況を比較した離婚の平均的な効果にのみ焦点が当てられ,効果の異質性は明らかになっていない.既婚女性の夫への経済的依存の大きさ,所得再分配の貧弱さ,就業・家族によるセーフティネット機能の格差を特徴とする日本の制度的文脈においては,離婚の経済的帰結は低所得層ほど大きい可能性がある.そこで本稿では,所得分布の異なる位置において離婚が女性にもたらす負の経済的帰結がいかに異なるかを明らかにする.
消費生活に関するパネル調査(1994-2020年)のデータと分位点処置効果モデルを用いた分析の結果,女性の等価世帯所得に対する離婚の負の効果は低所得層ほど大きいことが示された.その背景の一つには,低所得層ほど有配偶時の夫への経済的依存が大きく,離婚による夫所得の喪失の相対的な影響が大きいことがある.所得再分配のバッファー効果は概して限定的であり,離別女性が経済状況を回復するのに有効な対処戦略は再婚と正規雇用就業に限られる.以上の結果は,日本社会における強固な性別役割分業とそれを前提にした生活保障システムにより,離婚が単に既婚者と比べた離別者の平均的な不利を生み出すだけでなく,もともと不利な女性が一層不利になる不利の累積の契機となっていることを示唆する.