社会学評論
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特集「国境と性―複数の境界線を問いなおす」
グローバル・ハイパガミー再考
―フィリピン人結婚移民への調査から―
原 めぐみ
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2023 年 74 巻 3 号 p. 378-396

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抄録

二国間の経済格差を利用した「グローバル・ハイパガミー」を意図して日本に移住したはずのフィリピン人結婚移民であるが,近年の量的調査では,彼女たちの階層上昇が達成されていないとの結果が出ている.そこで本稿は,地理的空間と時間の経過を考慮しながらハイパガミーを再考する必要があると考え,フィリピン人結婚移民82名へのインタビュー調査で得られたデータを分析し,移民女性にとっての結婚の意味が数十年の日本での生活経験を通していかに変化してきたかについて考察する.分析軸は,夫またはパートナーと同居しているか否かと, 稼ぎ主が誰かで,本稿は以上の2つの軸に基づき,調査協力者の経験を「夫依存型」「夫扶養型」「子ども依存型」「シンママ自立型」と四分類する.そして,「夫依存型」であっても明らかに階層上昇をしているケースは少ないこと,夫と離別や死別している場合はさらに階層上昇が困難であること,ただし,フィリピンで培った文化資本や日本での自己投資の結果,自力で階層上昇していると認められるケースがあることを明らかにする.また,移民先の日本における階層が低くても,フィリピンへの投資や送金を通し,出身国内だけをみれば階層上昇を果たしたといえる実践がみられることも指摘する.結果として本稿は,階層の上方移動が結婚の結果だとする上昇婚概念は,結婚移民の二国に跨り長年に渡るプロセスを捉えきれないと結論づける.

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© 2023 日本社会学会
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