社会学評論
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特集「国境と性―複数の境界線を問いなおす」
安全な移住セックスワークを可能にする条件
―聞き取りとネットワークの解釈から―
青山 薫ルバイ エレン
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2023 年 74 巻 3 号 p. 451-468

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抄録

国境を越える移住を伴う性取引は,性サービスの提供者が自発的に行う労働(セックスワーク)なのか,脆弱な立場の当事者を奴隷のように支配する人身取引なのか―本稿はこのような二分法的議論を批判し,移住性取引を,状況によってセックスワークにも人身取引にもなりうる「連続体」と理解し,人身取引を避け安全なセックスワークを可能にする条件は何かを探究する.そのために本稿は,フランスと日本で行った参与観察および聞き取り調査に基づいて,当事者を中心としたソシオグラムを描き,これらを根拠に,彼女たちのネットワークとそこに埋め込まれた社会資源について具体的に考察する.

明らかになるのは次の4点である.①移住性取引は多様で,受け入れ国の法や社会状況によって当事者を取り巻く条件は著しく異なる.②一受け入れ国内でも,とくに出身国とエスニシティおよび在留資格によって著しく異なる.③ネットワークが複数の回路をもっているか否かが当事者の脆弱性を左右する.④だが,人身取引禁止議定書の定義に当てはまる人身取引の例は少ない.ここから本稿は,より安全な移住性取引を可能にする条件を明らかにし,人身取引対策をふくむ国家の規制が当事者の安全を保障していないことを指摘する.そして,当事者が危険を回避し安全を確保するための手立てを提案する.

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© 2023 日本社会学会
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