2023 年 74 巻 3 号 p. 435-450
近年,性的マイノリティの難民は保護を必要とする脆弱な存在として,国際的に認識されてきた.だが本稿は,性的マイノリティの難民が一枚岩ではなく,複数の変数によって分断され,異なった処遇を受けていること示す.特に,国際規範である難民の送還禁止(以下,ノン・ルフールマン)への抵触を避けながら,庇護希望者の入国を阻止する「ネオ・ルフールマン」の政策が次々に行われてきたこととその帰結を,アメリカの事例をもとに分析する.まず,これまで性的マイノリティの庇護希望者は一定程度,難民申請を行うことができていたことを示す.しかし,トランプ政権下で導入された「移民保護プロトコル(MPP)」によって,メキシコ国境での新たなふるい分けが導入され,そこでは,性的マイノリティ「である」ことだけでは,国境における難民申請の制限を免れなくなった.次に,COVID-19 対策措置の「タイトル 42」を分析し,歴史的に性的マイノリティの入国者の排除に用いられてきた「公衆衛生上の脅威」を,安全保障上の脅威として再動員することで,大規模な入国差し止めが機能していることを明らかにする.入国管理行政は,性的マイノリティの庇護希望者を,ときに入国管理の免除の対象として,ときに安全保障の脅威とみなしながら,かれらの庇護へのアクセスを限定的に認めると同時に,厳格に制限してきたといえる.