社会学評論
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「居場所のない動物」はいかに統治されるのか?
―アニマルシェルターにおける猫の統治実践から―
渡邉 悟史
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2023 年 74 巻 3 号 p. 537-553

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抄録

本稿は「居場所のない動物」は,どこで,どのように生きて死ぬよう働きかけられているのかという動物の統治にかかわる疑問を検討する.「居場所のない動物」とは家族とよばれるところへも野外へも行くところのない動物をさす.本稿は探索的な事例研究を行う対象として猫および猫を保護・隔離しているアニマルシェルターに着目する.猫はすべての個体が人間の家族に回収されるわけではないと同時に,野外に放逐すべきでもない存在になりつつある.猫をなるべく殺さず屋内で生かすという現在の動物政策において,また猫は生態系へ大きな負荷を与える存在であると捉える環境政策において,アニマルシェルターの政策上の重要性は高まっている.にもかかわらずシェルターに収容された動物の統治について取り組む社会学的研究は少ない.そこで東京都内の「X亭」にてフィールドワークを行った.本稿は,猫はアニマルシェルターで「家族として生きて死ぬ猫」となるよう働きかけられる一方で,「シェルターで生死を完結させる猫」としても統治されていることを指摘する.前者の生死のあり方が価値あるものとされ,後者における生死は「失敗」としてスタッフには意味づけられている.ところが「シェルターで生死を完結させる猫」が一定数現れる以上,X亭では死に至るまで「居場所のない動物」の望ましい生死のあり方がこれらの猫と協働して模索されている.

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