社会学評論
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「コミュニティ」の社会調査史的検討
―「八王子市民の生活と意識調査」を対象に―
宮地 俊介
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2023 年 74 巻 3 号 p. 519-536

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抄録

日本の地域政策においてコミュニティ概念に注目が集まっている現在,社会学者がコミュニティの形成をめぐって果たしてきた役割についての反省的な検討が進められている.

その成果を踏まえつつ本研究では,奥田道大らが1970年に実施し,大きな影響力をもった「八王子市民の生活と意識調査」を社会調査史の視点から検討した.具体的には,同調査の(1)組織やプロジェクト,(2)設計方針の説明,(3)周囲の人々との議論について資料を収集・参照し,各プロセスを再構成した.

その結果,次のことがわかった.(1)調査は人材・資金の豊富な日本地域開発センターを基盤としており,また同組織のなかでも特別に期待が寄せられて実施されたものだった.(2)現在も高い説明力が評価される,居住者の意識・行動に着目するという調査方針は,市民意識をめぐる,調査に内在的な要請と社会思想による批判との両方に有効なものとして採用されたものだった.(3)他方でこの方針は,都市計画的な具体性の欠如や地域の実態との乖離という点で現在は批判されてもいる.だが,これらの問題点は奥田たちも実査の前に認識しており,この方針はむしろ,都市計画などにはない社会学の視点を生かし,かつ当時の地域の実態とは異なるものとしてコミュニティを概念化するためにこそ採用されたものだった.

このように社会調査史の視点は,社会学者の実践の背景と経緯を説明する「社会学の社会学」の一立場として有効である.

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