2024 年 74 巻 4 号 p. 660-676
近年,ジェンダー・マイノリティへの配慮として,書類や調査で性別をたずねてはならないとの考えが広がっている.本稿では,ジェンダー統計の作成に不可欠な性別に加え,性自認を調査で捉え,多様で包摂的な統計を作成し,その設問を用いた代表性のある大規模調査を実施して,ジェンダー・マイノリティとそれ以外の人びとの統計的比較を行う必要があるという立場から,性別・性自認の設問の検討過程と議論を整理した.
国際的なジェンダー統計活動ではSOGI(性的指向・性自認)の設問検討が2010年代からみられる.諸外国の周到な検討結果から,ジェンダー・マイノリティの識別のためには,出生時に割り当てられた性別と自認する性別を問う2ステップ方式がよいとされる.実際,複数の国のセンサスでも用いられ,結果が公表されている.日本では筆者らの研究班で検討し,出生時性別,現在の認識がそれと同じか,別の性別もしくは違和感がある場合は今の認識をたずねる3ステップ方式を推奨している.性別・性自認をたずねることはジェンダー・マイノリティの実態を明らかにするために不可欠であるが,クィア方法論は,調査で分類し,数値化することが,性のあり方の固定化・規範化を生む可能性にも正面から向き合うことを求める.今後については政府による性別・性自認の問いの検討とそれを含む調査の実施,学会を挙げての取り組み,社会調査の基本的アプローチを〈性別〉に適用することなどが切望される.