社会学評論
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炭鉱の遺構と記憶は開発主義以降のまちづくりでいかに見出されたか
―ある産炭地における取り組みから―
坂田 勝彦
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2024 年 75 巻 1 号 p. 20-37

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抄録

本稿はあるまちづくりの取り組みをもとに,炭鉱の遺構と記憶が開発主義以降の産炭地でいかに見出されてきたかについて検討する.そして,地域に残された炭鉱の遺構を保存し活用するという営みが,産炭地の地域再生にとっていかなる意味をもちうるか明らかにすることを目的としている.

かつてであれば見向きもされなかった古い建築物や遺構,街並みや景観が今日,地域や社会にとって重要な歴史的・文化的価値をもつ「ヘリテージ(遺産)」として理解されるようになった.戦前・戦後の日本における石炭産業の遺構も,こうした状況の下,産業遺産として注目を集めており,各地で地域に残る炭鉱の遺構の保存と活用が模索されている.本稿が取り上げる「大町煉瓦館」の活動もその一つである.

佐賀県杵島郡大町町はかつて九州屈指の産炭地だったが,炭鉱の閉山により深刻な打撃を被った.その結果,炭鉱の歴史は地域で顧みられることはなかった.だが近年,町に残された炭鉱の遺構の保存と活用を模索する取り組みが「大町煉瓦館」を中心に始まった.その活動からはまず,地域に残された産業の遺構がそこで暮らす人々のさまざまな関わりや対話を通して価値づけられていく文化的・社会的プロセスが明らかになる.そして,炭鉱の遺構を保存し活用するという営みは産炭地にとって,地域の有様を見つめ直し,住民主体のまちづくりを展開する上での端緒を開くものでもあった.

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