社会学評論
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集合現象としてのデモへの参加過程
―1960年安保反対デモにおける都市空間の身体的経験―
桐谷 詩絵音
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キーワード: 都市空間, デモ, 安保闘争
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2024 年 75 巻 1 号 p. 38-55

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抄録

抗議行動の空間的力学を問う議論において,運動参加者以外の傍観者や歩道・繁華街空間との関係性は重要な論点だが,具体的な分析は少ない.本稿は1960年安保闘争の無党派層のデモ参加を事例に分析する.

先行研究は無党派層のデモ参加について,市民的政治意識に基づく動機や,戦後まもない当時のメディア・社会構造を重視してきたが,それらの要因だけでは人々が当初デモの現場で参加を躊躇した事実が説明できない.互いに見知らぬ沿道の傍観者たちは,どのようにデモに参加し,デモを主体的に遂行したのか.本稿はデモを都市的な集合現象として捉え,空間における身体的振る舞いの分析を通じて解明する.

傍観者の参加への躊躇は,参加者の表情や態度から感知されるデモの気楽さによって克服された.デモは,参加者の服装や沿道の見物人,露天商,そして繁華街の街並みを含んで成立する,祝祭的イベントとして経験された.沿道の傍観者に囲まれながら行進する実践や,繁華街の路上を見知らぬ人々とともに歩く実践の中で,デモ参加の主体性が遂行的に発揮された.言語による意思疎通というより,都市空間に集合する互いの身体やモノの感受・触知によって,人々は積極的にデモを遂行した.

積極的運動家やデモ空間のイデオロギー的側面に注目してきた抗議行動の空間研究に対し,本稿は傍観者や繁華街に注目することで,都市空間での身体の集合現象として抗議行動を説明する枠組みを提出した.

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