2025 年 76 巻 1 号 p. 29-45
今日の観光の場やイメージは動態性に満ちており,SNSのオーディエンスによる観光地化など,観光社会学におけるホストとゲストをめぐる伝統的な二項対立が融解・交差する状況が生じている.その点を踏まえ,本稿は福岡県糸島地域の観光の変遷と観光イメージの変容について,フィールドワーク・文献調査・メディア分析を通して論じた.
本稿は,糸島の観光の場とイメージの変容を「時間軸を伴う視点」から捉え,3つの時代区分から考察した.1990年代中期以前の糸島は生活空間としてみなされ,当時の旅行雑誌での掲載は皆無に等しい状況であった.1990年代末から2010年代前半には,食のブランド化やカキ養殖業の発展によって,糸島は福岡都市圏の日帰り観光やフードツーリズムの地として次第に観光の集合的まなざしの対象となった.当初,海岸やビーチ沿いのカフェの南国イメージは地域限定的なものであったが,2010年代中期以降,全国規模の旅行雑誌やSNSにおける主要イメージとなり,現地ではSNS映えスポットの増設など現実変容も生じている.この過程に関して本稿は,文化生産者とオーディエンスの境界が交錯するメディアや訪問者の実践によってデジタル空間上での集合的まなざしが形成された点,およびイメージ自体の行為主体性が場の意味変容や観光者の実践に作用している様相を示し,アーリやジェンキンズらの視点を援用しつつ考察した.