抄録
有賀理論は、大著『日本家族制度と小作制度』にいたって、はじめて体系的な社会学理論として確立された。すなわち、 (1) 分居大家族解体論の放棄により、同族団概念の適用範囲が古代・中世にまでひろげられ、 (2) 家の類型の提出、およびそれを前提とした相互転換論の構築がなされた。 (1) を実証的根拠とし、 (2) を理論的前提として、有賀の社会学的立場は表明されたといってよい。
この有賀社会学の成立に、及川宏の同族理論のはたした役割は、従来もしばしば強調されてきた。にもかかわらず、従来の学説史研究は及川の問題意識を見落していたため、有賀にあたえた影響を「同族団概念の明確化」に限定しすぎた。この見解だけで有賀社会学の成立を説明しつくすことはできない。
本稿では、及川宏の有賀批判の意義を再検討することによって、「同族団概念の採用」と有賀社会学の成立とのあいだの因果関連を、明らかにしたい。