社会学評論
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教育的ラツグの地域間構造
伴 恒信
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1980 年 31 巻 3 号 p. 51-73

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抄録
今日、活発な論議を呼んでいる教育病理に関しては、その病理諸現象を有機的に理解するための多くの類型が提出されてきている。こうした病理類型論は、個人対集団、教育内領域など分類の視座は異なるものの、教育体系内部の逆機能から病理の諸現象が結果されるという基本認識において共通している。
他方、社会変動それ自体を病理の基底的な発現メカニズムに設定する理論的立場が存在する。W・F・オグバーンは、「文化的ラッグ」という構成概念を創出して、文化体系内での領域問の進化速度の差異が深刻なラッグの現象を出現させると定式化した。さらに、R・G・コーウィンは、オグバーンの定式を教育の分野に適用し、教育的ラッグ論を展開した。本研究は、このコーウィンの定義した教育的ラッグの二タイプ、即ち構造的ラッグと文化的ラッグに倣って、インプット・ラッグとアウトプット・ラッグの二種の教育的ラッグを措定し、さらに加えて日本の教育を大きく規定する「政策」を媒介主体として仮設した上で、戦後三〇年の教育的ラッグの諸事象を分析・構造化している。
「インプット・ラッグ」は、教育体系へ入力される物的・環境的な教育資源を考察の対象としている。したがって、入力主体である経済体系の条件と入力変数との間の非連続が分析の焦点となり、多重回帰分析法の援用で数量的にラッグの度合が判定される。他方、「アウトプット・ラッグ」は、入力変数が教育体系の内部過程を経るうちに本来の目的とは異なった成果をもって出力されてくる事態に分析の重点が置かれる。具体的には、中級技能労働者の促成を目ざした高校の多様化が後の産業高度化に適応できない人材を生み出したことなどは、「長期にわたる教育的展望の欠除がもたらした職業教育制度のラッグ」と名づけることができるであろう。
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