社会学評論
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部落差別をなくするための調査を求めて
領家 穣
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1981 年 32 巻 1 号 p. 13-27

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抄録
部落実態調査は、初期の段階では、その「部落」の形成史を明らかにし、生活条件を記述し、一般地区のデーターと比較し、生活水準の差の指摘によって部落差別の存在を証明した。しかし部落の環境改善が進み、外から見た生活水準の差があまりなくなるにつれて、「部落」調査の目的の反省と、社会的差別としての「部落差別」を記述する標記を明らかにする必要が生じてきた。
社会的差別をなくするためには、差別のなくなった状態の記述が必要である。この状態に到達するために、現状をどう捉えるかが必須の前提になってきた。社会的差別を「社会参加からの排除」と規定し、「社会」のあり方との関係で記述の枠組を明確するという方法が選ばれた。関係・集団・全体社会といった区分は、状況に応じて行為者が社会を捉える捉え方であるとともに、どの社会においても人間の全存在にかかわってあらゆる層位に亘っている。全体社会についてはその構造化の仕方とも関係している。その何れにおいてもその社会の中で生きている人間の捉え方が問題である。「部落」に至る社会的形成史とその認識に対して、個々の個体がどのように部落差別を発生的に捉えてきたかという過程の各人の自覚が、部落差別をなくするため先決条件となる。虫瞰図的な各人の経験をどのように鳥瞰図的な全体像に繋ぐかという新しい協同形式が調査の目標となった。
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