抄録
財の移転-一方向的か多方向的かを問わず-を生じさせる現象 (移転現象) を類型別に定義し、その各々の過程について命題の提示を試みることが本稿の目的である。代表的な移転現象には交換、贈与、それに狭義の分配がある。交換は、合意された条件に従い、各当事者が自己の所有する財を他の当事者に与え、他の当事者の所有する財を受けとることで生じる。贈与は一方向的移転を伴い、贈与とそれに続く返礼 (贈与) は相互贈与を構成する。交換理論家が従来「交換」として言及して来た相互贈与は、条件の合意の欠如によって交換とは区別される。集合的に所有された、ないし所有権未確定の財 (の一部) を受領者が受けとるのが分配である。分配は、合意的分配 (合意に従い財を受けとる) 、集権的分配 (分配者が所有権を確定する) 、放任的分配 (任意に受けとる) に細分される。過去の経験的知見に基づき、以上の現象の過程に関するいくつかの命題が定立可能である。