社会学評論
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自己理解と他者理解
A・シュッツの『社会的世界の意味構成』をめぐって
佐藤 嘉一
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1981 年 32 巻 3 号 p. 2-17

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抄録
十九世紀末から二十世紀初めの約四〇年間は、〈実証主義に対する反逆の時代〉といわれる。この時代の社会・文化科学の思想的潮流には、文明の進歩史観に対する悲観的な見方が色濃くみられる。十九世紀の実証的経験科学の主役である〈道具的理性〉に対して、人びとは懐疑の目を向けるとともに、従来疎まれてきた人間の意思疎通の意味的世界に対して重大な関心を示した時代である。
本稿は、A・シュッツの自然的態度の構成現象学の根本主張をこうした時代状況の中に位置づけながら、彼の理論のもつ意味と意義を明らかにしようとするものである。彼の主張は、〈自己理解〉と〈他者理解〉に関する考察において最も鮮明かつ端的に表明されている。彼の理論は方法において内省的であり、視座において〈自己論理的〉である。従って方法において帰納的であり、視座において〈宇宙論的〉である実証的社会 (科) 学とは鋭い対照を示している。
自然的態度の構成現象学の現実構成の主張を、通常の実証的社会科学の現実分析と同一平面に並べて議論するのは不毛であろう。それぞれの方法と視座を確認しながら、両者の交流がはかられねばならない。
シュッツの理論は、社会的世界の根本構造を内省的かつ自己論理的に解きほぐす点に特徴がある。それ故にこれは、〈もの〉のようにあらわれる社会の存立機制や、〈科学的概念構成〉の特性について、私たちが柔軟な知見を得るのに役立つであろう。
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