社会学評論
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福祉国家の政治社会学序説
--T・H・マーシャルの市民権理論を手掛かりとして--
伊藤 周平
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1992 年 42 巻 4 号 p. 332-345,485

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抄録

一九七〇年代以降、様々な批判にさらされてきた西欧の福祉国家は、一九九〇年代に入っても多くの問題を抱えつつ、その方向性を模索している。こうした中で、社会学の立場から現代の福祉国家の問題状況を解明し、その解決策を提示しうる福祉国家発展モデルの構築が求められているといえる。ところで、マクロな福祉国家の社会学的研究において、戦後、主流をなしてきたのは、産業化の概念を用いて福祉国家の発展を説明する機能主義理論であるが、この種の理論では、現代の福祉国家の抱える諸問題を充分に解明しえないように思われる。その一方で、福祉国家の発展を民主化、もしくは市民権の拡大という観点から捉える市民権理論のアプローチがある。本稿では、市民権理論の代表的論者であるT・H・マーシャルの所説を検討することを通じて、西欧における民主化の過程で市民権が主体的内容的に拡大していったこと、そのことが、資本主義的市場システムへの国家介入とそれを許容する合意を不可欠の要素とする西欧の福祉国家発展の推進力となってきたことを明らかにする。さらに、福祉国家化推進への合意が揺らぎ、福祉国家が、市民権の保障を理念として取り込んだがゆえに、多様な社会層の多様な諸要求の理念的包摂を迫られてきた問題状況を指摘し、その下での福祉国家の政治社会学の方向性を展望する。

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