抄録
本稿は、コミュニケーション論的な視角からライフヒストリーに注目し、語り手と聞き手の共同制作としてのライフヒストリーの特徴を考察する。まず、ライフヒストリーを、語り手と聞き手というコミュニケーション行為者の「関係」のレベルと、語り手の表現する「内容」のレベルという二つのレベルでとらえる。そして具体的なライフヒストリーを聞き手のコミュニケーション行為と、語り手がライフヒストリーで表現する話題に焦点をあてて分析する。この結果、聞き手はさまざまな発話のなかでもとくに「あいづち」を通して語り手とのあいだに<親密さ>を形成していること、そして「関係」のレベルで<親密さ>が増すと「内容」のレベルで話題にヴァージョンの展開がみられ、多様な<深さ>のあるライフヒストリーとなることがあきらかになった。<親密さ>と<深さ>の関係は、ライフヒストリーの「内容」のレベルが「関係」のレベルと連関することを示している。