1992 年 43 巻 3 号 p. 285-303,373
住民意識論の中では、従来、住民意識と住民個々人の属性との関係が実証的に研究されてきているが、住民意識類型間の移行の問題についてはまだ充分に解明されていない。都市コミュニティ形成に関する、個人の側からの行動レベルでの参加メカニズムは、動態的プロセスが明らかにされてこなかった。他方、近年、資源動員論に依拠した研究がいくつかでてきている。そこでは、参加行動に影響を与える要因として、社会関係的要因の重要性が主張されているが、本論文は、社会関係的要因とコミュニティ形成運動への参加行動との間に、当人のコミュニティ形成に関わる住民意識 (コミュニティ意識) が介在することを、真野での事例研究の中から明らかにする。まず、真野におけるコミュニティ形成のイッシューとして、「まちづくり」事業計画への個別対応をとりあげ、積極的対応と消極的対応の諸事例が、家族周期、職業、持ち家・借家の構造的要因に規定されていることを明らかにした。ついで、社会関係的要因の規定性を確かめたうえで、構造的三条件が同一でしかも対応が異なる典型的な二事例を詳細に分析する中から、両者のコミュニティ意識が異なること、積極的対応ができるコミュニティ意識は、地域の友人ネットワークの保持と地域団体での活動の中から生じてくることを明らかにした。この分析から、大都市下町の真野では、「地域共同体」意識の一部も、コミュニティ形成に積極的に関わっていることが明らかになった。