抄録
一九七〇年代のスコッティシュ・ナショナリズムの高揚は、最も国民統合の進んだ国家と考えられていたイギリス社会に大きな影響を与えた。同時期に、西ヨーロッパの各地でエスニックな意識の高揚が見られ、スコッティシュ・ナショナリズムも含めて社会科学者の関心を呼んできた。本論では、マイノリティ・ナショナリズム高揚の社会的背景を、特にスコットランドの事例に注目して、明らかにすることを試みる。一九七〇年代の西ヨーロッパ社会でのマイノリティ・ナショナリズムの高揚は、いくつかの歴史的条件によって準備されていたが、第二次大戦後の社会変動によってもたさられた。こういった先進産業社会でのマイノリティ・ナショナリズムの高揚は、現代社会におけるエスニシティの機能への注目を促し、アイデンティティ追求の場としてのエスニシティ、政治的要求表出のための資源としてのエスニシティ、同一社会内の複数のエスニシティの処遇の方法といったチャレンジングな問題を提出する。