社会学評論
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立法者の死
政治の宗教社会学のために
富永 茂樹
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1993 年 44 巻 3 号 p. 282-297

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抄録
一七九四年夏のいわゆるテルミドールの政変において、それまで絶大な権力を保持していたロベスピエールは、きわめてたやすく政敵の術中に陥り没落していったかにみえるが、このときジャコバン派の指導者は、青年期にルソーやプルタルコスの読書をとおして知り、かつ革命がはじまってからのさまざまな言説のなかで語りつづけた古代の立法者、社会に法と規範をもたらすさいに、あるいはもたらすがゆえにほとんど必然的に集団からの迫害や暴力を蒙った立法者の姿に自らを重ねて考えていた可能性が大きい.逆にこうしたリュクルゴスにはじまりルネッサンスの時代のサヴォナローラをへてロベルピエールにいたるまでの、社会のなかで広範な支持を獲得していながら突然の没落と死を迎える人間の系譜を辿ってゆくと、社会的なものの根底には暴力がひそんでいるというルネ・ジラールの命題を検証できると同時に、ウェーバーのいう「カリスマ」型の権力が指導者自身の資質や能力よりも、むしろ秩序の実現を期待する社会の危機的な状況に由来していること、さらにデュルケームが指摘するとおり革命期には「集合的沸騰」が生じるとすれば、それは暴力的な状況をとおして聖なるものを産出し社会の生命を更新する過程にほかならないことを確認できるだろう.以上のような点においてフランス革命は、とりわけテルミドールの政変という事件は、政治の宗教社会学ないし宗教の政治社会学を構築するうえで、重要な手がかりを提供してくれることになるのである.
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