社会学評論
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社会福祉と社会統制
アメリカ州立精神病院の「脱施設化」をめぐって
杉野 昭博
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1994 年 45 巻 1 号 p. 16-30

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抄録
1981年の国際障害者年を契機としてノーマライゼーションといった福祉改革=脱施設化の流れがわが国においても定着した。この1980年代のわが国の福祉改革を1970年代における「障害者解放運動」の成果として見ることには, 今日では多少のためらいが伴う。それでは, 80年代の障害者福祉とは一体何だったのだろうか。
このような問題意識は, 精神障害分野での「脱施設化」に早くから着手したアメリカにおいては, すでに1970年代後半から登場していたようだ。本稿では, アメリカ州立精神病院の「脱施設化」について1970年代末以降行なわれたさまざまな批判的検証をもとにして, アメリカ精神医療福祉の改革過程をまず明らかにしたい。改革の原因として, 専門職の職業上の利害関心, 反施設主義イデオロギー, および財政という三つの要因が抽出される。今日の「脱施設化論」は, 社会的イデオロギーが専門職のサービス実践モデルの変革を促したとする「実践改革論」と, 社会統制のコスト追求が脱施設化をもたらしたとする「財政改革論」とに二分される。いずれの立場をとるかは, 精神医療福祉をはじめとする公的社会サービスとは「福祉」なのか「統制」なのかという古典的問に関連している。この意味で, 現代の福祉改革をめぐる評価は, 福祉サービスの実践課題だけでなく, 社会福祉学の理論的課題ともかかわっている。
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