抄録
近代日本の「家の墓」とそれをめぐる先祖祭祀は, 家という社会的基盤が直系の嗣子に相続されてゆく事によって支えられてきたものであり, 家の超世代的永続の願いの根幹をなすものであった。系譜上の祖先へのこの義務的な祭祀は, 戦後家族の在り方が変動するに従い, 近親者への情緒的な絆を重視する方向へと変化する。
1990年代に盛んになってきた散骨や合祀墓等の新しい葬墓の在り方を求める運動の中から, 本稿では「もやいの会」と「葬送の自由をすすめる会」の二つを取り上げ, それらが, 近代日本の「家の墓」という在り方が胎んでいた構造的な矛盾に対処すべく起こってきた二つの新しい方向を示唆するものであることを明らかにする。即ち前者は, 「家の墓」を担う人々さえその継承が困難であることに対応しており, 後者は, 「家の墓」を持たない人々が自身の墓を創設し継承させることも困難であることに対応しているのである。そして二つの運動は, 葬墓を自ら選択する問題として考えるという姿勢を, 「家の墓」の継承を阻害しない形で導入し, かつその選択をポジティヴに価値付けるものとしてそれぞれ機能し得ているのである。