抄録
本論文の目的は, 1997年12月の介護保険法の成立により新たに創設されることになる介護保険制度が, 日本の福祉国家体制の再編に対してもつ意義を社会学的に分析するにあたっての基本的な論点を整理し, その分析枠組みを提示することにある。
このようなねらいから, まず第一に, 介護保険制度創設の背景にある政策的な要因を, 80年代から90年代にかけての高齢者保健福祉政策の持続と変化という観点から分析した。そこでは, (1) 家族介護優先から, 家族介護支援, 介護の社会化への政策転換 (2) 「国民負担率」の上限設定と歳出抑制策による制約 (3) 老人医療費抑制政策 (4) 社会福祉制度改革の動きを検討した。
第二に, 介護保険制度の制度設計の特性を (1) 普遍性 (2) ミニマム保障志向の制度 (3) 保障されるサービスの水準 (4) 費用負担と市町村の役割 (5) 利用者負担 (6) 医療保健福祉サービスの調整と一元化 (7) 営利企業と市民組織の位置づけの七点に整理して分析した。
第三に, 福祉国家レジーム理論と福祉多元化論, 福祉国家類型論へのジェンダー・アプローチの理論枠組みに即して, 介護保険制度の政策的・社会的帰結の分析を試みた。