抄録
本稿は, 日系ブラジル人労働者とパキスタン人労働者を多数雇用している群馬県大泉町の中規模機械工場において行った参与観察および調査に基づき, 同工場内における日本人従業員の外国人同僚に対するまなざしとその変化の可能性を分析した論考である.従来の社会心理学の議論の中では, 外集団同質視をすることで抱かれる人種的ステレオタイプは, 多人種協働の中での外集団の個人化で解消されうるものとされてきた.しかしその枠組みでは, マジョリティの中での立場に応じて偏差を持ちつつ動的に展開されるという, 現実の人種意識変容過程の性質を捉えきれない.本稿では, そうした個人化過程は, 外集団の成員を単にバラバラに認識するようになるプロセスではなく, ミクロな空間内での自律的で人種横断的な仲間意識の枠組みを対抗的に設定することで, 所与の人種枠組みを相対化してゆく過程であると論じ, 日本人従業員各自の工場内での立場と強い相関を持つ, 外国人同僚に対する 4つの語りを描き出した.しかしその一方で, そうした自律的な人種間関係の生起は, 工場の中の現実にとどまる限定的なものであり, 全般的な人種意識の変容へと必ずしも繋がるわけではないということ, そしてその現象の背景には, マスメディアにおけるアジア系外国人労働者の否定的な表象の大きな影響力があることも明らかにした.