2000 年 51 巻 2 号 p. 188-203
本稿の主題は, A. シュッツの現象学的社会理論におけるレリヴァンス概念の位置づけとその社会学的な展開可能性の考察にある. シュッツはレリヴァンス概念を重視したが, その原理的考察は必要最低限にとどめられた. そのため, 従来のシュッツ研究において, レリヴァンス概念の理論的含意は必ずしも十分に解明されていない. そこで, 本稿はシュッツがこの概念を定式化させた『社会的世界の意味構成』第4章 「社会的世界の構造分析」の行論に立ち入り, この概念が「社会的世界の構造分析」のなかで定式化された理由の一端を明らかにすることで, この概念を導入したシュッツの狙いの一つを考察する. 本稿の考察を通して, レリヴァンス概念は, 社会的行為の意味構成における選択の問題とみることができるが, それは『社会的世界の意味構成』第2章 にみられる現象学的に還元された準位ではなく, 内世界的準位における意味構成の問題として位置づけられること, さらにこの位置づけの理論的含意は, 他者理解や社会関係といった間主観的問題圏に踏み込む点にあることが明らかにされる. これらから, レリヴァンス概念は間主観的問題圏を地平に提唱されている側面が指摘される. この地平は, 後年の『レリヴァンス問題の省察』にもみいだされる. 人間の共同性の根底にある間主観性に深く関わる点で, レリヴァンス概念は社会学の基礎理論としての重要性を持ち合わせている.本稿の狙いは, 以上のことを指摘することにある.