抄録
「女性に対する暴力」の社会的顕在化, 社会的対応構築努力の始動期であった1990年代に, そこにかかわった研究者その他の専門職等が被害当事者から何を批判・指摘されたのか, そして暴力被害等人権侵害問題に調査研究という形で関わろうとする者がその批判にどう応えるのかを, 経験に基づく自省と, その後の研究展開を踏まえて確認した.とくに, 問題認識や利害を共有しているという感覚が, 専門職等に当事者との間の社会的立場の違いに起因する権力関係を軽視ないし見落とさせ, よりひどい搾取をしてしまう危険を明らかにした.「女性に対する暴力」に関する研究が行われてよいための要件として, 違いが無視されずに扱われるような関わりの蓄積による信頼関係, 当事者の力・自律性・主体性への信頼, 当事者と専門職等の関係を不均衡にする構造自体の問題化, 当事者自身が語れる状況の創出努力の4点を整理した.