抄録
私は社会調査におけるインタビュー場面に絞って, 調査者と調査対象者をめぐる困難の意味を明らかにしたい.その過程で, 一見解決しがたいように見える困難が, 社会学における実証主義 (positivism) の立場から生じてくることを明らかにしたうえで, その困難は字義通りの困難ではなく, 対話的構築主義的な調査を進める上で, なくてはならない資源であることを示そう.
そのためには, すぐに実証主義的な調査批判と調査者の権力性の解剖に向かうのではなく, その前提となる立場を明示したい.それにはまず, 調査者と調査対象を切り離すことはできないこと.その反対に, 調査者と調査対象とのコミュニケーションが社会調査という現象を対話的に構築することを主張する.つぎに調査者と対象者の対話のなかで構築される権力作用を明示するために, ナラティヴ・アプローチを援用し, モデル・ストーリーが調査というコミュニケーション過程においてどのような働きをするのか, 具体的なインタビュー場面を分析することによって明らかにしよう.それはあることを禁止したり, 抑圧したりするというよりはむしろ, 当該の物語を語る欲望を作り出す働きをする権力である.そこから, このモデル・ストーリーが裏切られる場面や;そこに回収できないユニークなストーリーの発生に注目することの重要性が浮かび上がる.