2004 年 54 巻 4 号 p. 355-369
本稿では, まず, オランダの研究者が設定した集団主義-個人主義の尺度を用いて, 日本の若年大卒者が雇用形態によって職場で求められる個人主義的働き方の程度に違いがあるか否かについて, 大量質問紙調査結果から検討した.ついで, 非典型雇用においては, 一定の職業能力獲得・発揮が見込まれる職務であるか否かが, 個人主義的働き方の実現を左右するという見方から, 非典型雇用での職業能力の獲得・発揮状況を, 別の実態調査から雇用形態別に検討した.
非典型雇用に流入する若年者には個人主義的志向が強いことは指摘されているところであるが, ここでの分析では, 個人主義的働き方を要請する非典型雇用の職場・職務は, 大卒の比較的年長の (経験年数が長い) 男性の職場や派遣社員の場合など, 特定の部分に限定的に存在する可能性が高いことが明らかになった.むしろ多くの若年アルバイトやパートタイマーの職場・職務は, 職業能力の獲得・発揮の機会が限られたものであり, 仕事の自立性や個人の意見の反映などの個人主義的な組織文化が支配する職場とはいえない.
さらに, 非典型雇用での職業能力の獲得・発揮に重要だったのは, 学校教育などの企業外の機関でも幅広い多様な業務の経験でもなく, 就業先企業への長期勤続や企業からの支援を受けることであった.若者が非典型雇用を選択する背景には個人主義的志向があるが, 企業依存性を強めなければ, 職業能力の獲得は進まず, ひいては自立的な働き方も実現できない.この矛盾の克服には職業能力形成のための基盤を社会的に整備していかなければならない.