抄録
本稿では, (1) 既婚女性の就業参加の増加, (2) 少子化との関連から親元に留まる成人未婚子の増加, (3) 高齢化との関連から高齢単身世帯の増加, の3つの社会変化に注目する.これら3つの社会変化を「個人化」論と絡ませて階層論の観点から検証し, 世帯と個人との関係が弱体化したかについて検討することを主たる目的とする.
女性 (妻) は男性 (夫) に比べて, 他の世帯員 (夫) との関係をより考慮して階層帰属意識を決定していた.事実, 既婚女性の就労は夫の社会経済的地位 (特に夫収入) との関連で実現されており, それは既婚女性の地位が世帯から独立して「個人化」に向かっているとはいえない.既婚女性の家庭外就労の増加は, 女性の世帯からの独立を促したというよりも, 世帯内における不均衡なジェンダー間の勢力関係を維持しつつ実現されていた.
個人は世帯と独立して存在するわけではない.それは成人しても親元に留まる未婚子や, 子世代と同居する高齢者にも認められた.個人と世帯との関係は世帯の経済的地位によって異なっており, 両者は独立していなかった.世帯と個人は, 少子高齢化という人口構造の変化の中で互いの関係を保持していた.女性の生き方の変化や少子高齢化は, 個人が所属する世帯との関係の中で実現されていったといえる.