社会学評論
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主権的な法と越境する生活世界
「日本帝国」占領下小笠原諸島の「帰化人」をめぐる自律的諸実践
石原 俊
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2006 年 56 巻 4 号 p. 864-881

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抄録

小笠原諸島では, 1830年以来移住していた出身地も経歴も雑多な人びとが, 寄港する捕鯨船との交易等を中心に自律的な社会的・経済的実践を繰り展げ, この島々は海の移動民による生活世界の結節点となっていた.だが同諸島の移住民たちは, 「日本帝国」による占領の過程で帰化させられ臣民の一員となる.
本稿は, 「帰化人」と呼ばれたかれらが, 主権的な法とわたりあいつつ, 移動民の生活世界で培ってきた諸実践をどのように組み替えながら生き抜いていったのかを検討する.
かれらは19世紀後半以降, 小笠原諸島を例外的領域とする「日本帝国」の法にも後押しされながら, 寄港する「外国」船員との間で, 国境を越える無関税の交易を引き続き展開していた.また捕鯨船での漁労や島での狩猟などで培ってきた銃手としての技法を活かして, 「外国」籍のラッコ・オットセイ猟船に季節雇用され生計を立てていった.かれらはオホーツク方面の猟場に移動する過程で, しばしばロシアや「日本帝国」自身の「国境侵犯」にも加担するという, 複雑で越境的な軌跡を辿った.
こうした「帰化人」をめぐる諸実践は, 近代帝国 (以下で国民帝国として詳細に定義する) の「周縁」における例外的な法によって一定程度掌握されつつも, 「中心」から「周縁」に向けて放射状・階層状に拡大する帝国の運動からも逸脱的・自律的な, <脱周縁化>の力を孕んでいたのである.

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