社会学評論
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近代民衆における自立の構造
加賀象嵌職人の場合
青木 秀男
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2006 年 57 巻 1 号 p. 174-189

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抄録

本稿は, 近代民衆の自立の構造を, 加賀 (金沢) の象嵌職人の日記 (『米澤弘安日記』, 明治~昭和期) を事例に分析する.まず, 近代民衆像をめぐる近代史学の論争を, 安丸良夫の通俗道徳論を中心にレビューする.そして, 近代民衆は, 生活の自立をめざして固有の生活倫理を実践したこと.その際, 搾取や抑圧と闘って自立をめざした民衆と, 闘わずに, もっぱら生活倫理を実践して自立をめざした民衆がいたこと, つまり, 民衆の自立には2つの回路があったことを論じる.
次に, 生活史法としての日記分析の方法について説明する.次に, 闘わない民衆の事例として, 弘安の自立の構造を, 生活倫理の分析により明らかにする.生活倫理の徳目として, 生計の維持と家族の平穏に対する〈責任感〉, 責任を全うするための禁欲的な生活態度としての〈勤勉〉, 生計の維持を確実にするための, 象嵌細工の新分野開拓をめざす〈革新〉, 生計の維持と家族の平穏の確かな展望を得るための, 仕事や近隣の身近な人びととの〈和合〉, その反面としての, 不幸な境遇にある人びとや社会的弱者に対する〈憐憫〉 (と蔑視) を抽出する.そして, 弘安の自立が, これら徳目の相互関係の中でめざされたこと, これら全体が, 近代に内在する必然としてあったことを論じる.
最後に, 近代史学の民衆像の議論に還って, それらと, 本稿の近代民衆像の差異について論じる.それによって, 仮説ながら, 〈もう1つの〉民衆像の提起とする.

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