社会学評論
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グラウンデッド・セオリーと理論形成
木下 康仁
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2006 年 57 巻 1 号 p. 58-73

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抄録

グラウンデッド・セオリー・アプローチ (GTA) は1960年代に医療社会学分野で先駆的な業績を残したGlaserとStraussによって考案され, データに密着した分析から独自の理論を生成する質的研究法としてヒューマンサービス領域を中心に広く知られ, また実践されている.本稿では, この研究法が考案された背景とその後現在に至る展開を, これまで十分に検討されてこなかった対照的な訓練背景をもつ2人の協働の実態, 結果として生じた分析方法のあいまいさを論じている.また, 質的研究でありながらデータ至上主義とも呼べる立場にたち, 理論を独自に位置づけているこの方法におけるデータの分析と理論生成の関係について考察し, さらに質的研究法の中でのGTAの位置づけと実践の理論化に果たしうる役割について論じた.
社会学を出自とし, 社会学からみれば応用領域にあたるところで広く関心をもたれているGTAは, 日常的経験を共有可能な知識として生成する研究方法論として期待され, 結果として社会学へと越境する研究の流れをもたらすうえで重要な役割を果たしてきたと考えられる.研究対象を求めて他領域に越境してきた社会学自体が, 現在では逆に越境される対象になっており, 対象を共有しつつ社会学とヒューマンサービス領域との問で研究内容をめぐりダイアローグが開ける局面が出現している.

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